こんにちは、映画好きライターの田中です。
ほぼ毎日映画を見ている筆者が、おすすめの映画をご紹介。
今回取り上げるのは、2023年5月19日公開の日本映画『最後まで行く』です。
韓国映画『最後まで行く』の日本版リメイクの本作。疾走感のあるタイトルと予告に惹かれ観に行ったのですが…個人的に、上半期ナンバー1のエンタメ映画でした。
シリアスなだけでなく、からっと笑えるシーンもあり、笑いと恐怖の緩急が絶妙な作品。少々グロテスクなシーンが苦手でなければ、ぜひ観てほしいクライムサスペンス映画です!
※ネタバレ含みます
目次
概要
日本では2015年に公開された韓国映画『最後まで行く』をリメイクした、クライムサスペンス作品。
裏金作りに関わった刑事が、ひき逃げ事故を起こしたことをきっかけに、次々と災難に見舞われていく。
監督は『新聞記者』『ヴイレッジ』の藤井道人。主人公の工藤を『ヘルドッグス』の岡田准一、工藤を追い詰める監察官、矢崎役に『ヤクザと家族 The Family』で藤井監督と組んだ綾野剛。
そのほか広末涼子、磯村勇斗、杉本哲太、柄本明ら豪華キャストが共演。
あらすじ
ある年の瀬の夜、刑事の工藤は、危篤の母のもとに向かうため雨の中、車を走らせていた。しかし妻からの着信で、母の最期に間に合わなかったことを知る。
そしてそのとき、車の前に現れたひとりの青年を誤って轢いてしまう。慌てた工藤は必死に男の遺体を車のトランクに入れ、その場を立ち去る。
母の葬儀場に着いた工藤は、男の遺体を母と同じ棺桶に無理やり入れ、母とともに斎場で焼こうと試みる。そのときスマホに「お前は人を殺した。知っているぞ」というメッセージが入り、工藤は腰を抜かす。
メッセージを送ったのは、県警本部の監察官・矢崎だった。工藤は、矢崎から追われる身になってしまう。
『最後まで行く』の感想
まずは、『最後まで行く』のざっくりした感想をお伝えします。
シリアスなのに心底笑える極上エンターテイメント
本作は、笑いと恐怖の緩急が絶妙で、視聴者を飽きさせない極上のエンターテイメントに仕上がっていると感じました。
あらすじだけ見ると、とてもシリアス。展開自体も緊張感があり、暴力描写のオンパレードで、決して穏やかなものではありません。
しかし、ポップコーン片手に見れない映画というわけではないのです。
それは、劇中随所に箸休め的な笑いが散りばめられているからです。
特に主演を務めた岡田准一さんの演技は、過剰に見えるほど大袈裟でコミカル。最初は違和感を覚えるかもしれませんが、徐々にこの過剰な演技が効いてきます。
この笑いと恐怖の緩急のおかげで、本来深刻な場面も極端に深刻になることはなく、エンタメとして楽しむことができるのです。
工藤と矢崎の表裏一体な関係性
主人公「工藤」と、天敵「矢崎」という二人の関係性の描き方が、とても魅力的だったと思います。
はじめ、工藤と矢崎の関係は「追われる者」と「追う者」という真逆の立場でスタートします。
しかしストーリーが進むにつれ、2人の立場の類似性が示され、最後は、実は同じ穴の狢であったことが分かるのです。
この事実が、徐々に明かされていく展開の作り方が非常に見事でした。
極限状態のなかで成り立つ、歪な友情。本来ありえなかったはずの友情。ラストシーンでそれが垣間見えたとき、謎の感動と高揚感に包まれました。アドレナリンが出るとでも言うのでしょうか。とにかく最高でした。
大量札束の「砂漠」は圧巻
本作で印象的なモチーフとして登場するのが、砂漠のトカゲです。
工藤と懇意の仲であったヤクザの組長仙葉は、砂漠に生息し、日中は熱さで足をぴょこぴょこ跳ねさせているトカゲの話をします。
仙葉は「満たされていない人間」をこの砂漠のトカゲに例えています。それは、「熱さにのたうち回りながらも、そこから出る術を知らない滑稽な人間」といった意味合いで使われている印象を受けました。
仙葉は、さまざまな事件に巻き込まれながらもこの街から出ることができない工藤こそが、砂漠のトカゲであると揶揄しているのです。
物語終盤でやっと工藤が辿り着いた大金の隠された倉庫は、大量の札束に覆われた砂漠のよううでした。
膨大な富があるにも関わらず、相変わらず満たされない工藤。金では渇きを潤うことができないという皮肉にも感じた演出で、このシーンはとても印象的でした。
『最後まで行く』の見どころ
次に、『最後まで行く』の見どころを深掘りしていきましょう。
息も付けないジェットコースター展開
この作品は、息をつく間もないジェットコースターのような展開が大きな魅力だと感じました。
主人公工藤に次々と災難が降り掛かり、やや強引ながらもゴリ押しで突き進む飽きさせない展開は、見事な力技としか言いようがありません。
笑いと恐怖の緩急や、役者さんの惹き込まれる演技、不穏な音楽の応酬。すべてがバランス良く重なり合い、ピークでエンドロールを迎える流れまでが完璧でした。アドレナリンどばどばです。
ちなみに、映画館で初めて、一度もドリンクを飲まずにエンディングを迎えた作品です。飲み物を飲む暇すらなかったのです。
まるでゾンビ…綾野剛の怪演
本作、実力派の役者さん揃いなのですが、特に綾野剛さんの怪演が光ってました。
綾野剛さんが演じたのは、工藤を追う監察官の矢崎。矢崎は、冷静沈着なエリート監察官とは、まったく別の顔を持っていました。
矢崎は、県警本部長の娘・由紀子と結婚。それは、ひとえに出世のためでした。また、矢崎は権力者の金を寺に入れ資金洗浄を行うなど、表には出せない方法で多額の金を回していました。
その金を巡りトラブルが起き、後始末に追われる矢崎。能面のような顔に隠された狂気的な残虐性が、たびたび顔を出すようになります。
そんな二面性を持ったキャラクター、矢崎を綾野剛さんが見事に演じており、佇まいから表情に至るまで抜け目なく不気味で、目が離せませんでした。
爽快(?)なラストシーンは必見
先述したとおり、極限の緊張感のなかで成り立つ、歪な友情。これが工藤と矢崎の関係性の魅力であり、作品自体の魅力でもあると思っています。
本作は所々コミカルな場面があるものの、基本的には重苦しい緊張感のなかでストーリーが進んでいきます。
特に追うものと追われるものという構図は最後の最後までまとわりつき、不気味で不死身の矢崎がどこまで追いかけてくる展開は恐怖そのもの。矢崎が残虐性のあるキャラクターなので、常に工藤が殺されないかとハラハラしてしまいます。
しかし物語終盤、事態は意外な局面を迎えます。実は対立構造にあると思われた工藤と矢崎が、似たもの同士、黒幕仙葉に利用された駒同士に過ぎなかったということが分かるのです。
そこではたと頭に浮かぶ言葉が…「昨日の敵は今日の友」。
仙葉からの裏切りを知った2人。しかし、依然として工藤の逃走劇は続きます。工藤を追い続ける矢崎の表情はどこか楽しげで恍惚としており、そんな矢崎に追いかけられる工藤も、まるで生を実感するような生き生きした表情になっているのです。
なんでしょうか、このラストシーン。今まで感じたことのないような、異様な高揚感に包まれました。それは泥臭い世界観の本作に似つかわしくないほど、爽快なものだったのです。
『最後まで行く』が楽しめる人の特徴
『最後まで行く』が楽しめる人の主な特徴は、下記のとおりです。
- アクション映画が好き
- サスペンス映画が好き
- エンタメ映画が好き
- 派手な展開やシーンが好き
- ジェットコースターのような展開が好き
- バディものが好き
- 暴力的なシーンに耐性がある
- スタイリッシュよりは泥臭い作品が好き
- ちょっと笑えるサスペンスが好き
『最後まで行く』が好きな人におすすめの作品
ここでは、映画『最後まで行く』が好きな人におすすめしたい映画をご紹介します。ぜひ併せてご覧ください!
最後まで行く
監督は『トンネル 闇に鎖(とざ)された男』のキム・ソンフン。チャンミン役に『ファイ 悪魔に育てられた少年』『悪いやつら』のチョ・ジヌン。韓国版アカデミー賞と言われる「大鐘賞」で監督賞を受賞しました。
本記事で紹介している『最後まで行く』のリメイク元で、2014 年に公開されたクライムサスペンスです。邦画『最後まで行く』を楽しめた人でこちらを観ていない方は、ぜひ設定やストーリーの違いを楽しみながら鑑賞してみてはいかがでしょうか。
インファナル・アフェア
1991年、ストリート育ちで香港マフィアの青年ラウは、その優秀さに目を付けたボスにより警察学校へ送り込まれる。一方、警察学校で優等生ヤンは、突然退学となる。ヤンは、警視に能力を見込まれ、マフィアへの潜入を命じられたのだった。やがてラウとヤンという2人の青年は、それぞれの組織でスパイとして暗躍していく。10年後、警察はヤンから大規模な麻薬取引の情報を受け取る。しかし、警察の包囲網は、ラウによりマフィア側に筒抜けだった。検挙も取引も失敗に終わったことで、警察側、マフィア側双方がスパイの存在に気づきはじめ…。
警察とマフィア、相対するそれぞれの組織に潜入した2人の男の生き様を描いた香港ノワール。
マフィアに潜入する青年ヤンをトニー・レオン、警察に潜入する青年ラウをアンディ・ラウが熱演。2003年には、2人の主人公の若き日を描いた『インファナル・アフェア 無間序曲』、そして本作のその後を描く『インファナル・アフェアIII』が製作され、3部作となった。2006年には、マーティン・スコセッシ監督により『ディパーテッド』としてハリウッドリメイクされる。2012年には、日本で本作をモチーフにしたテレビドラ『ダブルフェイス』が製作された。
似たもの同士の男たちが互いの組織に侵入し、翻弄されていく様を描いている『インファナル・アフェア』。『最後まで行く』の工藤と矢崎の関係性に惹かれた方は、楽しめる作品だと思います。
ヴィレッジ
美しい集落「霞門村(かもんむら)」で暮らす片山優は、村の伝統として受け継がれている神秘的な「薪能」に魅せられ、能教室に通うほどだった。しかし、村にゴミの最終処分場が建設されることとなり、その建設をめぐる事件によって優の人生は狂っていく。母親が抱えた借金の返済のためにゴミ処理施設で働くこととなった優は、仲間内からいじめの標的になってしまう。孤独に耐え、絶望的な優の日常は、幼なじみの美咲が東京から戻ったことにより、大きく動き出す。
『最後まで行く』の監督、藤井道人のオリジナル脚本を横浜流星主演で映画化した、ヒューマンサスペンス。2022年6月に他界した、河村光庸プロデューサーの最後のプロデュース作品となった。
主人公、片山優役を横浜流星、幼なじみの美咲役を黒木華が演じるほか、古田新太、中村獅童 杉本哲太ら豪華顔ぶれが脇を固める。
『最後まで行く』と同年に公開された藤井監督作品ということで、観ておいて損はないでしょう。それにしても藤井監督、すごいスパンで映画を作っていて驚きです。
まとめ
以上、映画『最後まで行く』の感想をお伝えしました。
本作では、2時間という限られた時間のなかで、あらゆる感情を味わうことができます。
「ハラハラ」「ドキドキ」「不安」「恐怖」「安堵」「圧迫感」「爽快感」「高揚」。
映画を観る本来の楽しさを再確認させてくれた作品、ぜひまだご覧になっていない方は映画館へ!
ちなみに、私は次にこの作品を観るときは、絶対大晦日に観たいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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