こんにちは、映画監督志望の田中です。
毎日映画を観ている私が、好きな映画の魅力を語っていきます。
今回ご紹介するのは、岩井俊二監督の『Love Letter』。個人的には「風邪ひき映画」だと思っており、先週風邪をこじらせた折にもう一度観てみようと思いつき鑑賞したところ、「こんなに面白い映画だったのか・・・!」と驚いたのが取り上げたきっかけです。
風邪が流行っている昨今。部屋にこもってすることがない人は、楽しめること間違いなしの名作だと思います!
目次
あらすじ・概要
『Undo』『スワロウテイル』の岩井俊二監督の長編デビュー作。
事故で婚約者の樹を亡くした博子。博子は、今や国道になったと言われている彼が住んでいた家に届くはずのない手紙を出した。しかしその手紙は、婚約者と同姓同名、藤井樹という女性のもとへ届き、瓜二つの博子と樹の不思議な文通が始まるのだった……。
この作品では、主人公の博子と樹の2役を中山美穂さんが演じ話題となりました。
第19回日本アカデミー賞優秀作品賞、豊川悦司さんが優秀助演男優賞と話題賞(俳優部門)受賞。柏原崇さんと酒井美紀さんが新人俳優賞、REMEDIOSが優秀音楽賞受賞。中山美穂さんは、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭などで主演女優賞受賞。1995年度『キネマ旬報』ベストテン第3位、同・読者選出ベストテン第1位を獲得。
感想
まずはざっくりした映画の感想からお伝えします。
本人不在で描かれる「藤井樹」の人間味
まずこの作品の魅力は、中学時代の回想以外では一度も登場しない博子の婚約者「藤井樹」という人物の人間味です。(※以降、「藤井樹」と表記)
「藤井樹」は、博子や博子の周辺人物、女性の藤井樹の回想のみでしか語られません。
しかし、一度も登場しない「藤井樹」の、情けなくも温かみのある人柄が滲み出てきて、「なんとなく自分もこの人に会ってみたかったな」と思わせる仕上がりになっているのが見事だと思いました。
そして最後には、自分も「藤井樹」に「お元気ですか?」と問いかけてしまいたくなる。そんな、観た人の心のなかにじんわりと浮かび上がってくるような魅力的な人物として描かれています。
鈍感すぎる藤井樹のもどかしさ
もう一人、中山美穂さん演じる女性の藤井樹、もなかなか印象的な人物です。
博子の婚約者「藤井樹」と中学3年間同じクラスで、同姓同名ゆえに大小さまざまな事件に巻き込まれる藤井樹。学生時代の「藤井樹」を知る者として、博子から当時の話を聞きたいとせがまれ、手紙を通し少しずつ「藤井樹」との思い出を回想していきます。
しかしこの藤井樹、なんとも鈍感。自分の気持ちにも、相手の気持ちにも。
明らかに「藤井樹」から思いを寄せられ、自分自身も彼に淡い恋心を抱いているにも関わらず、どちらに対してもピンときてない様子の藤井樹。もどかしくてやきもきします。
が、これぞ青春。成就しなかった恋ほど美しいものはないと言います。「藤井樹」と藤井樹の恋が実らなかったからこそ、この作品はこんなにも儚くて美しいものに仕上がっているのでしょう。
絶妙な気だるさが風邪ひきに最高
この作品は、常に漂う絶妙な気だるさが魅力だと思います。
それは、主人公藤井樹が劇中で風邪をこじらせており、常に夢と現実をふらふらと行き来しているようなおぼつかなさがあるからだと思います。
映像的な表現にしても、幻想的な光の当て方や、ぼんやりと柔らかな質感が、なんとも気だるさを誘います。風邪をひいた静かな夜に、ぼうっと一人で観たい作品です。
面白いのが、物語のピークの場面で樹の風邪の具合も悪化していくということ。面白い映画では、シーンを重ねるごとに視聴者の「熱」も帯びていくと思うんです。作品にのめり込めばのめり込むほど樹の熱が上がっていく様が、視聴者の映画を観る「熱」と連動していているのが魅力の一つだと感じます。
「手紙」について考える
SNSがメッセージ交換ツールの主流になっている昨今。「手紙」を書くという行為について深く考えさせてくれるのが本作です。
皆さん、最近誰かに手紙を書きましたか?
手紙の良い所は、自分の素直な気持ちを伝えられる点なのではないかなと思います。
SNSはやり取りのスパンが短かったり、すぐに既読がついてしまったりして、落ち着いて自分の気持ちを整理してから伝えることが難しいのではないでしょうか。
「手紙」であれば、まっさらな紙に、自分の気持ちをゆっくり乗せることができます。どれだけ悩んでも推敲しても良い。長文でも重たくならない。それが「手紙」です。
この映画が公開された頃にSNSはありませんが、時代を超えて「手紙」の良さを再確認できる作品であることは間違いないです。
観賞後は誰か大切な人に思わず手紙を書きたくなってしまうかも・・・?
見どころ
次に、この作品の見どころを解説していきます。
同じ顔の二人の女性を演じる中山美穂さん
ご存知の通り、この作品では、博子と樹という二人の女性を中山美穂さんが演じています。見どころなのは、この二人が全く違う魅力を放っているということ。
博子は物静かで慎ましやかな女性。亡き婚約者「藤井樹」への一途な思いも垣間見え、大和撫子のような雰囲気が漂っています。
一方樹は、風邪をひいていながらも活発な面が際立っており、ややボーイッシュな性格。
映画が進めば進むほど二人が瓜二つながら全く別の人間であることがよく分かります。ただ、どちらも「藤井樹」が好きになった女性。二人ともに違った魅力があり、ぜひ映画を観ながらその部分を堪能してほしいと思います。
ちなみに私は…樹派です。友達になったら楽しそうだからです。
終盤の雪山シーンは必見
個人的にこの作品の一番の山場は、文字通り「雪山」のシーンだと思っています。博子が「藤井樹」の思いを断ち切るため、雪山から彼の眠る山に向かって第絶叫。
このシーンを観ると、とても大切なことを思い出します。
それは、大切な人に言葉を伝えようと思ったとき、なかなか気の利いた言葉や美しいセリフが出てくるわけではない。しかしストレートであればあるほど胸に響くということ。
案外、自分の心の中の気持ちを口にすると、とてもシンプルだったりします。
博子の「藤井樹」への思いがストレートに伝わる名場面だと思います。必見です!
陽だまりの中のような映像美
この作品の大きな魅力は、ずばり映像美でしょう。陽だまりの中にいるような柔らかな光の質感、美しい登場人物たち、雪景色……。作品の世界観にぴったりと溶け込むシーンばかりで、観ているだけで目が潤います。
登場人物達も派手な服を着ているだけではないのに、絶妙に様になっています。
樹が風邪を引いているということもあり、夢か現実か分からないような演出も浮遊感に拍車をかけています。
ミステリーなど難しい映画が観たくない、頭を使いたくないという方でも、ただただ流れている美しい映像をぼうっと観ているだけでも楽しい本作。ぜひ風邪の日のお供にどうぞ!
甘酸っぱい主人公の学生時代
この作品は、博子や樹たちの現代パートと、樹と「藤井樹」の回想パートに分かれます。特に学生時代の回想パートは、なんとも甘酸っぱく描かれていて、とても可愛らしい。
恋に疎い二人の藤井樹、お互い素直になれず(女性の樹に関しては自分の気持ちにも無自覚)すれ違ってばかりです。
そんな成就しない恋というのがなんとも初々しく、観ていてにやにやしてしまうこと間違いなしです。
それだけでなく、教室の風景や図書館の揺れるカーテンなど、まるで大人たちの「憧憬の象徴」のように学校の描写が美しい。それは誰しもが戻りたくてももう戻れない過去であり、だからこそより瑞々しく儚く映るんでしょう。
ぜひ回想パートで胸を締め付けられてみてください!
『Love Letter』が好きな人におすすめの映画
ここでは、『Love Letter』が好きな人におすすめの映画をご紹介します。
ラストレター
『Love Letter』『スワロウテイル』の岩井俊二監督が、自身の出身地である宮城を舞台に、手紙の行き違いから始まった2つの世代の男女の恋愛模様、そしてそれぞれの登場人物の心の再生と成長を描いたラブストーリー映画です。
姉・未咲の葬儀に参列した裕里。裕里は、未咲の娘・鮎美から未咲宛ての同窓会の案内状と、未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために同窓会へと赴く裕里だったが、姉と勘違いされてしまう。そこで初恋の相手・鏡史郎と再会した裕里は、未咲のふりをしたまま彼と文通することに。やがてその手紙が鮎美のもとへ届き、鮎美は鏡史郎と未咲、裕里の学生時代の淡い初恋の思い出をたどりはじめることとなる……。
おすすめポイント
『ラストレター』は、『Love Letter』と同じ岩井俊二監督作品であり、『Love Letter』との類似点も多い作品です。同じように「手紙」の行き違いから物語が進んでいく点、回想と周辺人物のみから語られる死者、残された者の再生と成長……。
キャストのサプライズもあるので、『Love Letter』が刺さった人は、ぜひ観てほしい作品です!
管制塔
『ソラニン』を手がけた三木孝浩監督が、北海道出身バンド「Galileo Galilei(ガリレオ・ガリレイ)」の楽曲にインスパイアされ製作した青春ドラマです。
日本の最北端・稚内で生まれ育った中学生・藤田駈と転校生の滝本瑞穂。二人はともに孤独を抱いていたことから心を通わせるようになる。駈と瑞穂は駈の家で見つけた古いギターをきっかけにバンドを結成するが……。
おすすめポイント
雪景色の美しい風景のなかで、少年少女の出会いが描かれています。学生の恋や冬の景色など、『Love Letter』が好きな人がハマる要素がつまった作品なので、ぜひチェックしてみてください!
陽だまりの彼女
越谷オサムの同名人気小説を、松本潤と上野樹里の初共演で映画化したラブストーリー映画。監督は『ソラニン』『僕等がいた』を手がけた三木孝浩。
新人営業マンの浩介は、仕事先で幼なじみの真緒と10年ぶりの再会を果たす。中学時代は「学年有数のバカ」と呼ばれ、いじめられっ子だった真緒。しかし今は、見違えるほど美しい大人の女性へと成長していた。浩介は恋に落ち、やがて真緒との結婚を決意する。しかし、真緒には誰にも知られてはいけない不思議な秘密があった……。
おすすめポイント
この作品は、学生時代の恋と現代の大人の恋を描いており、淡い光の質感など『Love Letter』が好きなら刺さる要素が多いのではないかと思いおすすめさせていただきました。
観た後の満足感もすごく、ラストシーンまで目を離さず観てほしい作品です!
三月のライオン
『ストロベリーショートケイクス』『風たちの午後』を手がけた矢崎仁司監督が1992年に手がけた長編第2作目。ベルギー王室主催ルイス・ブニュエル「黄金時代」賞受賞。
兄に恋心を寄せ、いつか兄の恋人になりたいと願う妹。そんなある日、兄が記憶喪失になる。妹は兄に、「自分は恋人だ」と偽り病院から連れ出し、取り壊し間近のアパートを借りて一緒に暮らし始めることに……。
兄役に「ガキ帝国」の趙方豪。映画監督の石井岳龍、長崎俊一、山本政志が友情出演。2021年2月、デジタルリマスター版をリバイバル公開。
おすすめポイント
この作品は、『Love Letter』と同様の90年代に作られたもので、柔らかい光の質感なども似ておりおすすめしました。美しく儚い映像は、観ているだけで閉鎖的な世界観に惹き込まれてしまう危うさを含んでおり、没入感を味わいたい方はぜひ観てみてください!
まとめ
以上、映画『Love Letter』の魅力をお伝えしました。
冬の静謐な雪景色、学生時代の淡い恋模様など、美しい映像と切ないストーリーを堪能したい方はぜひご覧ください。
現実と過去を行き来しながら淡々と進んでいくので、風邪で寝込んでいる方もまったりと観れる作品です。
観賞後は、大切な誰かに手紙を書きたくなること間違いなし!
熱筆に小樽の雪をぶっかけるようで恐れ入りますが、「藤原」でなく「藤井」です。。。
あと「名前・メールの入力は任意です。」
とありますが実際は必須設定のようです。
あしからず。