こんにちは、映画監督志望の田中です!
毎日映画やアニメ作品を観ている私が、おすすめしたい作品の見どころや魅力をご紹介します。
本日ご紹介するのは、森見登美彦原作、湯浅政明監督の名作アニメ作品『四畳半神話大系』。
京都を舞台に、個性豊かなキャラクター達が縦横無尽に駆け巡る不毛なパラレルワールドを描いた青春物語。その魅力について深掘りしていきます。
※ネタバレ含みます
目次
あらすじ
主人公は、京都のとある大学に通う三回生の 「私」 。「私」は、 大学での薔薇色のキャンパスライフを夢見ていた。しかし、現実はほど遠く、悪友小津のおかげで実りの少ない二年間が過ぎようとしていた。 「私」はことごとく小津に振り回され、謎の自由人 樋口師匠には無茶な要求をされ、孤高の乙女で気になる存在の明石さんとは、これがどうしてなかなかお近づきになれない。この2年間無為に過ごしたことを悔いていた「私」は、いっそぴかぴかの一回生に戻り、もう一度大学生活をやり直したい と考えるようになる。「もし、あの時計台前で、別の道を選んでいたら、俺のキャンパスライフはどうなった…?」
その願いの呼応したかのように、私は不思議な並行世界に迷い込む。パラレルワールドで繰り広げられる、不毛と愚行の青春奇譚がアニメ化。
概要
「もしも別の人生をやり直せたらどうなっていた?」をテーマに、主人公は並行世界を歩き続け、常に同じ結末を辿ってしまう奇奇怪怪な青春奇譚。湯浅監督作品『ピンポン』同様、ノイタミナ枠で放送されたアニメ作品です。
本作は、現実世界を主軸にファンタジー要素が組み込まれるタイプのアニメで、やはり湯浅監督独自のアニメーションならではの誇張表現がこれでもかと盛り込まれています。さらにそうした演出が舞台である京都の街を最大限生かしてなされるので、京の町が好きな人ならテンション上がること間違いなしです。
作品にハマったら、鴨川デルタ、下鴨神社、四条河原町などゆかりの地を聖地巡礼してみるのもまた一興です。
2022年9月に劇場版公開
四畳半神話大系から派生した映画『四畳半タイムマシンブルース』が、2022年9月30日より3週間限定ロードショー。ディズニープラスでも独占先行配信予定です。
主題歌はアニメ版と同様ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新曲「出町柳パラレルユニバース」。
感想
まずはアニメ『四畳半神話大系』を観た感想について述べていきます。
「もし学生生活をやり直せたら?」
本作は、「もし不遇な学生生活をもう一度はじめからやり直せたらどうなっていたか?」をパラレルワールドという形で繰り返し実践していく作品となっています。
「もう一度やり直せたら」という思いは、誰もが一度は抱くものでしょう。主人公の「私」は、小津という悪友に出会ったことで貴重な学生生活を無駄にしたと感じ、やり直したいと望むことから物語が始まっていきます。
アニメ全11話、ほぼ毎話、大学入学後別の選択肢を選んだ「私」の枝分かれしたキャンパスライフが描かれていきます。しかし、どれだけ別の選択肢を選んだとしても、「私」の学生生活に悪友の小津が現れ、「私」のキャンパスライフを滅茶苦茶にしていきます。
毎回小津に振り回される「私」は、毎話終盤で「小津がいなければ」と嘆きます。不思議な点は、傍観者である私たちは、小津に振り回される「私」がそこまで不幸には映らず、むしろ楽しんでいるようにすら感じるということ。
「私」は、どんな選択をしても小津に出会う運命で、その運命は案外自ら選びにいってるのではということ。これは、たとえ選択肢を変えたとしても「私」の根本的な性質が変わらず、それにより付き合う人間も変わらず、つまり「もう一度やり直せたら」と望むことそのものが不毛といったことを表しているように感じます。
不遇続きの「私」、好機に気づくか?
同じように不遇なキャンパスライフを繰り返す本作ですが、まるで時空を行き来しているように、毎話に登場する人物がいます。
それが木屋町の老婆の占い師。彼女は「私」がどんな選択肢を選んだとしても必ず現れ、毎回同じことを「私」に伝えます。
「好機はあなたの目の前にぶら下がっています」
占い師は「私」に、好機は常に目の前にあると諭しているのです。
「私」にとっての好機、それはズバリ四畳半の部屋にある照明の引き紐にぶら下がった「もちぐま」のキーホルダーです。これは「私」の後輩で工学部に所属する明石さんの持ち物であり、「私」が明石さんと近づくことで薔薇色のキャンパスライフへの道が開けるということを示唆しているのです。
しかし「私」にとって明石さんは、それなりに気になる存在ではあるものの、恋焦がれるほどの相手ではないわけです。一時の寂しさで誰かに縋ることを良しとしない「私」は、自ら好機を棒に振るわけです。毎話、毎話、性懲りも無く。
そんな「真面目」というべきか「柔軟性に欠ける」というべきか、はたまた確固たる恋愛観を持っているというべきか、もしくは究極のロマンチストというべきか…。
兎にも角にも、どれだけやり直そうと好機を棒に降る「私」に、視聴者はヤキモキするわけですね。
不毛な毎日の愛しさに気づいて
本作では、結局のところ「不毛な毎日の愛しさ」を描いていると感じます。
どれだけ繰り返そうと、「私」の生活は小津や明石さん、樋口先輩などの周辺人物で固められており、その狭い世界から出ることはありません。小津への文句を言いつつも、どの並行世界でも「私」は小津と肩を組んでいるのです。
それはつまり、どれだけ時間を繰り返そうと、「私」の中身は変わらないし、「私」にとって居心地が良い相手も変わらない。「私」はいきなり黒髪の乙女を侍らせられる色男になれるわけではないので、結局は不毛な毎日を送ることになってしまうのです。
その中で「私」が好機を手にするためには、「不毛な毎日の愛しさに気づく」必要があるのではないでしょうか。
部屋にぶら下がるもちぐまを握りしめ、明石さんに届けるという、変わらない日常を受け入れる勇気。そしてその事実を時空を跨いで「私」に伝えようとした小津。
本作を観ると、他愛もない日常が続く「今」を愛しんで生きることの大切さや意味を考えざるを得ません。
見どころ
次に、『四畳半神話大系』の魅力や見どころについて深掘りしていきましょう。
小津という曲者について考える
なんといっても本作の魅力は、「小津」というキャラクターでしょう。
この小津という人物について、再度確認しておきましょう。
小津は、「私」の宿敵であり、盟友です。工学部電気電子工学科に所属していますが、電気も電子も工学も嫌いです。1回生終了の時点で、取得単位数も成績も芳しくありませんでした。偏食家でお菓子ばかり食べ、常に顔色が悪く、妖怪に例えられるほどに不気味な風貌をしています。悪行好きの天邪鬼で、他人の不幸が大好き。しかし立ち回りが巧く、複数のサークルや組織に所属し京都中に広い人脈と情報網を築いている世渡り上手な一面もあります。そのため、「私」とは対照的に、無意義な学生生活を存分に楽しんでいる存在ともいえます。
つまり小津は、なかなかの曲者なんですね。狡猾で「私」を振り回す一面もありながら、どこか憎めないチャーミングさも持ち合わせている。
なんだかんだ言いながらも、「私」は小津のことが好きなのでしょう。だからこそ離れがたい。そうです、小津は曲者なのです。
「私」の恋愛観
本作で印象的なのは、主人公「私」の恋愛観です。
アニメ6話「英会話サークル ジョイングリッシュ」では、泥酔した同じ英会話サークルに所属する羽貫さんに襲われ、貞操の危機(好機?)に見舞われます。
この時、「私」の脳内は理性の本能の間で凄まじい葛藤が起きます。しかし小津はここでも、「一時の感情に流されてはいけない」「男女の関係とは簡単に結ばれて良いものではない」と踏みとどまり、トイレに籠城し事なきを得ます。
「私」は独自の頑なな恋愛観により、ある種の好機を棒に振るわけですね。これについての是非は人によっての価値観が違うので触れずにおきますが、とにかく「私」は少女のようなロマンチックな恋愛観を心に宿していることが垣間見ることができます。
視聴者はそんな「私」にやはりヤキモキせずにはいられません。それが作品の醍醐味ともいえるでしょう。
延々と続く四畳半に託されたテーマ性
この作品は、不毛なキャンパスライフを送る「私」の過ごす四畳半が延々と続いていく仕組みになっています。
10〜11話では、まさに物理的に四畳半が延々と続きいていき、「私」はその終わりのない迷路をも彷徨うことになります。「私」は友人たちにも会えず、美味しいものも食べられず、四畳半に閉じ込められることにより、これまで「不毛」だと思っていた自分の生活がいかに充実していたものだったかを知ります。
ここまで来てやっと、「私」は、不毛な日常の愛しさに気づくことができたというわけです。
畳みかけるような並行世界の連続の結末が、まさか物理的な四畳半世界の連続だったとは…。
『四畳半神話大系』が楽しめる人の特徴
アニメ『四畳半神話大系』が楽しめる人の主な特徴は、下記の通りです。
- 森見登美彦作品が好き
- 湯浅政明作品が好き
- パラレルワールドを扱った作品が好き
- 不毛な男同士の青春ストーリーに惹かれる
- 純粋な恋愛がしたい
- もう一度人生をやり直せたらと考えている
- 京都を舞台にした作品が好き
- 上手くいっているカップルを見るとモヤモヤする
『四畳半神話大系』が好きな人におすすめの作品
ここでは、アニメ『四畳半神話大系』が好きな人のおすすめしたい作品をご紹介します。ぜひ併せてチェックしてみてください!
マインド・ゲーム
『アニマトリックス』などで注目を集めたSTUDIO4℃が、ロビン西原作のコミック「マインド・ゲーム」を長編アニメーション映画化。劇場版『クレヨンしんちゃん』で注目を集め、シュールで独特な世界観が光る短編作品『ねこぢる草』を手がけたアニメーター湯浅政明が初の長編監督に挑んだ作品。
一度は死んだものの生き返った青年の一筋縄ではいかない生きざまを、実写や2D、3Dなど多様な映像表現を駆使しハイテンション・エネルギッシュに描ききった意欲作です。声優は今田耕司や藤井隆ら吉本芸人が多数出演していることでも話題になりました。
「なんて無様な人生、なんて醜い死に方、まだ、20歳なのに…」
最低にカッコ悪い死に方をした男が、生への執念と気合だけを頼りに、猛ダッシュで復活!
幼なじみの初恋相手、みょんちゃんに再会した西。しかし、借金の西はみょんと姉、ヤンの営む焼き鳥家に取り立てにきたヤクザによって惨めな殺され方をしてしまう。現世への未練が拭いきれない西は、神様に逆らい再び現世に舞い戻ることに成功する。しかし、今度はひょんなことから巨大クジラに飲みこまれてしまい……。
おすすめポイント
この作品は、『四畳半神話大系』の監督、湯浅政明さんの長編デビュー作です。
湯浅監督の持ち味である、ころころと変わっていくシーンの連続や、ビビットな色合いで描かれる心象風景や精神世界、ジェットコースターのように目まぐるしいストーリー展開などが存分に盛り込まれています。
原点にして頂点という言葉がありますが、『マインド・ゲーム』は、湯浅監督の世界観、魅力が特に発揮されている作品なのではないかと思います。
『四畳半神話大系』のドタバタな世界観にハマった方は、ぜひこちらの作品もチェックしてみてください。
ピンポン
『ピンポン THE ANIMATION』のタイトルで、2014年4月〜6月までフジテレビ『ノイタミナ』枠にて放送。松本大洋原作。
本作はあらかじめ用意された脚本がなく、湯浅政明監督が絵コンテから描き始め、そこでセリフなどを決めているということでも有名。
2015年、「東京アニメアワードフェスティバル 2015」アニメ オブ ザ イヤー部門テレビ部門グランプリ受賞。
ピンチのときには必ずヒーローが現れる。片瀬高校卓球部に所属する、自由奔放で自信家、天真爛漫なペコ(星野裕)。クールで笑わない、天才カットマンのスマイル(月本誠)。辻堂学院の留学生、チャイナ(孔文革)。常勝・海王学園の主将、ドラゴン(風間竜一)。同じく海王に通うペコとスマイルの幼馴染、アクマ(佐久間学)。各人、それぞれ卓球への思いを抱え、インターハイ予選は近づく。「274cmを飛び交う140km/hの白球」。その行方が、頂点を目指す少年たちの青春を切り裂く…。
おすすめポイント
アニメ『ピンポン』は、『鉄コン筋クリート』同様松本大洋氏原作。湯浅政明監督作品で、『四畳半神話大系』同様、『ノイタミナ』枠で放送されました。
原作の魅力をそのままに、アニメーションでしかできないテンポ感のある映像表現が実現、高クオリティのアニメ作品として多くの視聴者の心を震わせ、「東京アニメアワードフェスティバル 2015」アニメ オブ ザ イヤー部門テレビ部門でグランプリを受賞しました。
『ピンポン』は全11話のアニメ作品ですが、ぜひ全話通して観ていただきたいです
犬王
南北朝から室町期に活躍した実在の能楽師、「犬王」をモデルに織りなす古川日出男氏の小説「平家物語 犬王の巻」を、『夜明け告げるルーのうた』『ピンポン』の湯浅政明監督がミュージカルアニメとして長編映画化。
「ピンポン」「鉄コン筋クリート」を生み出した漫画家、松本大洋がキャラクター原案、「アイアムアヒーロー」の野木亜紀子が脚本を担当。豪華製作陣に加え、女王蜂アヴちゃん、森山未來が声優に起用。
京の都、近江猿楽比叡座の家に、1人の子供が誕生した。その子こそが後に民衆を熱狂させる、能楽師「犬王」だった。しかしその姿はあまりにも奇怪で、比叡座の大人たちは犬王の全身を衣服で包み、顔に面を被せた。ある日犬王は、盲目の琵琶法師少年「友魚(ともな)」と出会う。生きづらいこの世を生き抜くためのパートナーとして固い絆で結ばれた2人は、互いの才能を開花させ周囲に認められていく。舞台で観客を魅了する犬王は、演じるたび身体の一部を解き、唯一無二の美を獲得していく…。
おすすめポイント
『犬王』が、現在公開中の湯浅監督最新作です。
こちらの作品は、「音楽の力」が存分に描かれた作品になっています。ミュージカルアニメと謳うだけあり、ライブを観戦するような感覚で楽しめる映画です。
音楽と映像の融合が素晴らしく、劇中のライブシーンはフェスをイメージしているということで、臨場感満点です。
湯浅監督の自由な発想が生かされたアニメーションで音楽を楽しみたいという方は、ぜひ映画館へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
夜明け告げるルーのうた
湯浅政明監督の完全オリジナル劇場用長編アニメーション映画作品。
音楽好きな人間の少年と、海で生きる人魚の少女の絆、その出会いと別れを丁寧で繊細な描写で綴った本作。フランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭」の長編コンペティション部門に出品される。日本映画としては「平成狸合戦ぽんぽこ」以来、実に22年ぶりとなる最高賞のクリスタル賞を受賞する。
寂れた漁港日無町で、父親、祖父と3人で暮らす反抗期の男子中学生、カイ。両親の離婚が原因で、東京からうらびれた日無町へ引っ越してきたカイは、両親に対して複雑な思いを抱えていながらも、それを口に出すことができず、鬱屈した日々を過ごしていた。そんなある日、クラスメイトでバンド仲間の国男と遊歩に誘われ人魚島を訪れたカイは、そこで人魚の少女ルーと出会う。カイは天真爛漫なルーと共に過ごすうちに、徐々に自分の気持を言えるようになっていく。しかし、日無町では、古来より「人魚は災いをもたらす存在」とされており……。
人魚の少女ルーの声を谷花音、主人公カイの声を『くちびるに歌を』の下田翔大が担当。
おすすめポイント
この作品も、湯浅監督作品として非常に注目を集めました。完全オリジナルということで、より湯浅監督の頭の中を覗くことができるのではないでしょうか。
本作では海に住む人魚と人間の交流を描いており、「好きなものを好きと言える大切さ」を教えてくれる作品です。水の描写が綺麗で独特、湯浅ワールド全開です。
まとめ
以上、アニメ『四畳半神話大系』の見どころや感想をご紹介しました。
誰しもが、「もう一度人生をやり直せたら少しはまともだったのかな」と思うことがあるでしょう。
しかし、自分自身の性質や資質は変わりませんし、自分と楽しく過ごせる人間の種類も大きく変化することはないのです。「私」は常に「私」です。そんな不毛な人生を、いつだって変わらない「私」を、そんな私と人生を共にしてくれる友を、今より少し愛しく思えるようになる。そんな素敵な作品です。
最後までお読みいただきありがとうございました!