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映画『鉄コン筋クリート』の見どころや感想を紹介!「街」は存在意義のメタファー?【ネタバレあり】

こんにちは、映画監督志望の田中です。

毎日映画を観ている私が、おすすめしたい映画の見どころや感想をご紹介します。

本日取り上げるのは、2006年公開のアニメ映画『鉄コン筋クリート』。「ピンポン」や「青い春」でもお馴染みの松本大洋原作、ハリウッドで活躍するマイケル・アリアス監督作品ということで注目を集めました。

本作は主人公たちの精神世界の描写が多くやや難解とされていますが、そこには人間が生きていくうえで大切なことがたくさん詰まっているように感じました。ぜひ最後までお読みいただけたら幸いです。

※ネタバレあり

概要

1993年〜1994年「ビッグスピリッツ」にて連載された松本大洋原作の人気漫画「鉄コン筋クリート」を、「アニマトリックス」などハリウッドでVFXスペシャリストとして名高いマイケル・アリアス監督がアニメ映画化した作品。義理と人情の下町「宝町」を舞台に、縦横無尽に飛び回る「ネコ」と呼ばれる2人の少年、クロとシロの暮らしや葛藤を描く。

声の出演に、『硫黄島からの手紙』の二宮和也と、『フラガール』の蒼井優。原作の松本大洋は『ピンポン』や『青い春』でも有名です。

あらすじ

親を知らない少年、クロとシロ。彼らは街を治安を守る者として宝町に住み着き、盗みなどをしながら日々暮らしていた。そんななか、宝町で再開発の話が持ち上がる。ある日「蛇」という謎の男が街に現れ、「子どもの城」というテーマパークを建設すると話が浮上します。宝町が変化していくにつれ、運命共同体のようなクロとシロの関係性にも、変化が訪れる…。

感想

まずは、映画『鉄コン筋クリート』の感想についてご紹介していきます。

人間に潜む純粋な狂気性

この作品は、人間に潜む純粋な狂気性を、極めて抒情的に描いています。

特にクロは、随所で純粋に暴力を楽しんでいるような姿が描写されます。クロの暴力行動は非常に衝動的で、それはある種の純粋さを備えています。

それは「街を守るため」なのか、「生きていくため」なのか。あるいは…娯楽なのか。親を知らず、戸籍も住所もないクロは、次第にそれが分からなくなってきているようにもみえます。

そんな人間の狂気性を、否定も肯定もせず静観できる。これが本作を観るうえでの醍醐味だと感じます。

補い合うクロとシロの関係性

主人公、クロとシロの関係性は、まるで闇と光のように補い合っています。

クロとシロは、常に一緒にいます。家族も家もなく、頼れるのはお互いだけという状況。二人の生きる手段は暴力。それでも二人の関係性が非常に優しく温かみのあるものであることが、大きな救いです。

戦闘能力の高いクロは、いつだって街を、そしてシロを守っています。純粋無垢なシロは、そんなクロを頼りにし、慕っている。

しかし作中の言葉を借りれば、本当に守られているのはクロの方だった、と。クロは、シロを守ることで、自分自身が救われていた。

「クロが持ってないこころのネジ、シロが全部持ってる」

このシロの言葉からも、クロとシロがお互いを補い合う存在であることがよく分かります。

「愛」とは

作中では、「愛」という言葉が印象的に使われています。

ヤクザのボス、ネズミ(鈴木)は、「何も信じない」という木村に対し「だが愛は信じろよ」と言います。

劇中で「愛」という言葉が出てくるのはほぼこのシーンのみですが、この言葉はその後の展開において、常に人びと(それは登場人物でもあり、視聴者でもある)の頭の片隅に蔓延るようになります。

「愛」とはなんでしょうか。

愛を説いたネズミが、愛について語らうことがなくなった街で、変わりゆく姿に絶望し、死んでいく。正確には、己が愛を説いた部下によって殺される。この物語上の事実が、まるで何かのメタファーであるように響いていきます。

ネズミから愛を学んだ木村は、街を変えていき、本当の意味でネズミを殺した蛇を殺します。まるで報復のように。その後、おそらく蛇の刺客によって殺された木村ですが、果たして彼は愛とはいったい何なのか分かったのでしょうか。

「街」とは

作品では、度々「俺の街」「私の街」という言葉が見られます。

そのため、「街」とは何なのか、考えさせられる仕組みとなっているように感じます。

宝町は、暴力が統じる、任侠が支配する、共同体のようなものです。蛇が来る前までの宝町は、警察も、ヤクザも、身寄りのない子供も、浮浪者も、ごく自然に共存しているように見えました。

それは、分かりやすい言葉で言うと「居場所」「存在意義」「アイディンティティ」のようなものなのではないでしょうか。

クロは、宝町をかき回すような人間が現れると、「俺の街ではしゃぐな」と迎え撃つ姿勢でいます。シロは、変わりゆく街の様子を察知し、寂しいと嘆きます。ネズミも、もうここは自分の知っている宝町ではない、と絶望し、街の再開発に加担した部下によって殺されます。

つまるところ、登場人物たちは、「街」に、自身の存在理由を見出している。「街」は自分の拠り所であると感じている。そして、その街が変わりゆく(居場所がなくなっていく)事実に対して、各々が反応を示す。それを描く。それがこの作品そのものであるのではないでしょうか。

ある者は絶望し、ある者は嘆く。ある者は憤慨し、ある者は諦める。強き者や鈍感な者は変化に順応し、弱き者や繊細な者はその変化に耐えられない。

「街」は己の存在理由のメタファーであるとも解釈できると感じました。

見どころ

次に、『鉄コン筋クリート』の魅力を深掘りしていきましょう。

躍動感のあるアニメーション映像

本作の大きな魅力は、躍動感のあるアニメーション映像でしょう。

特に街を縦横無尽に「浮遊」できるクロとシロの戦闘シーンは見ものです。蛇の差し金である、サイボーグのような殺し屋に追われるシーンは緊迫感大。思わず息を呑んでしまいます。

この躍動感のある演出を支えているのは、街のリアリティでしょう。舞台である宝町のディティールを細かく描くことで、クロやシロの生きている世界に立体感が生まれます。そして彼らのピンチにも現実感が伴い、一瞬も目が離せなくなります。

この迫力はぜひ映画館で堪能して欲しいですね!爆音上映ならなお、良し。音楽も素晴らしいです。

闇に包まれたクロの精神世界

作中後半からは、闇に包まれたクロの精神世界が描写されていきます。錯乱状態のシロの描いた絵が具現化されたようなクロの世界は、やはり対の存在であるシロの存在を意識せざるを得ません。

シロと離れ離れになった後、クロの目の前に、「イタチ」という存在が現れます。殺し屋の追手に迫られピンチに追いやられたクロは、イタチというクロが作り出したもう一人の自分に助けられます。

イタチとは、クロの中に存在する「闇」そのものです。作中序盤から常々描写されていた、クロの狂気性。これがシロという相棒を失ったことにより、抑制がきかず頻繁に顔を出すようになるのです。

この、クロの精神世界に潜む「イタチ」とは、クロにとって敵なのか、見方なのか。なんとも曖昧でボーダーレスな存在です。

闇によって、イタチは孤独にもなるし、救われもする。

作中、イタチはクロに「いつでもお前の中に住む。お前を守る…お前を救う…」と囁きます。

本作観賞後、映画館を出た直後の親子の会話が、なんとも作品の本質をついていて、印象的でした。

親「ハッピーエンドでよかったね」

娘「え? あれってハッピーエンドだったの?」

親「…だって、救われたじゃない」

娘「どっちが? どっちが?」

親「えーと…どっちも…?」

本作をハッピーエンドと取るか、バッドエンドと取るか。それはあなた次第、と言ったところでしょう。

ノスタルジックな宝町の情景

本作の魅力は、なんといってもノスタルジックな宝町の情景。まるで70〜80年代を思わせる街並みです。

さまざまな言語が行き交う発展途上の異文化共生社会である宝町。度々散見されるインド像のモニュメントや像が印象的です。

どこか懐かしさを感じさせ、アジアの発展途上な雰囲気もあり、雑多。ディティールまで細かく設定されるため、まるで実在する街のように行末を見守ることができます。

そんな中、蛇という謎の人物が作り上げた「子どもの城」というテーマパークも、アジアの香りが漂う外観となっています。こちらも、一度観たら忘れられないユニークなデザインをしており、ピエロや巨大な像のオブジェなど、不気味な印象を与えます。幼少期に観た夢の中のような混沌とした雰囲気が非常に魅力的です。

シンプルで奥深い登場人物たちのセリフ

映画『鉄コン筋クリート』は、

「だが愛は信じろよ」

「クロが持ってないこころのネジ、シロが全部を持ってる!」

「安心安心」

など、シンプルながら無限の解釈な余地があるようなセリフが多いことが魅力といえます。

特にシロが発するセリフは、あどけない子供の戯言のようにも思えますが、その実、何かとても重大なことを伝えるようにも感じます。物語の根幹に迫るような、どうしても聞き過ごせない言葉が多いんですね。

反対に宝町に根付くヤクザのネズミが発する言葉はシンプルで言葉数少なく、とても分かりやすい。

先述した「だが愛は信じろよ」や「置いてきた。邪魔だから」「誕生こそ消滅の始まりなのだよ」「ともあれ、死ぬにはいい日だ」など。最後まで抜け目なくかっこいいのです。

登場人物たちの何気ないセリフにも、ぜひ耳を傾けてみてください。

『鉄コン筋クリート』が楽しめる人の特徴

映画『鉄コン筋クリート』が楽しめる人の主な特徴は、下記のとおりです。

  • アニメ映画が好き
  • 多少の暴力描写には耐性がある
  • 松本大洋の漫画が好き
  • 湯浅政明作品が好き(※本作の監督は異なります)
  • アジアテイストな作品が好き
  • ディストピアに惹かれる

『鉄コン筋クリート』が好きな人のおすすめの映画

ここでは、映画『鉄コン筋クリート』が好きな人におすすめしたい作品を紹介させていただきます。ぜひ併せてチェックしてみてください!

AKIRA

大友克洋が1982年から「ヤングマガジン」にて連載したコミック「AKIRA」を、大友自らが監督を務め1988年アニメーション映画化。

近未来の東京(ネオ東京)を舞台に、超能力者と軍隊が繰り広げる戦いを暴走族の少年たち交えて描いた作品。製作期間は3年、総製作費10億という破格の歳月・労力をつぎ込んだ日本を代表するハイクオリティアニメーションで、国内外問わず多くのクリエイターに影響を与える。

1988年7月。関東に新型爆弾が落とされ、第3次世界大戦が勃発する。そこから31年の歳月が過ぎ、2019年、東京湾上に新たな都市=ネオ東京が築かれた。ネオ東京は、翌年にオリンピック開催を控えており、過去の繁栄を取り戻しつつあった。そんなある夜、職合訓練校に通う不良少年・金田とその仲間鉄雄らは、閉鎖された高速道路で自慢のバイクを走らせていた。そこで「26号」と呼ばれる、子供の体型に老人のような顔を持つ、奇妙な男と遭遇する。その男は軍と対立するゲリラにより「アキラ」という軍事機密と間違えられラボから連れ出され、今まさに軍に追われていたのだ。現れた軍により、26号と接触し負傷した仲間の鉄雄が連れ去られてしまい……。

おすすめポイント

この作品は、アジアテイストのディストピア、少年たちと大人の対立、虚栄の繁栄といった要素が『鉄コン筋クリート』と通づる部分があり、おすすめさせていただきました。

今更おすすめすることもないくらいの名作ですが、『鉄コン筋クリート』鑑賞後、真っ先に思い浮かんだのがこの作品です。

架空の日本の都市、退廃的な街の様子、不気味で不安になるような街の繁栄など。主人公が妙に身体能力が高い点も似ています。書いていて、また観たくなってきました。

パプリカ

「時をかける少女」でお馴染みの筒井康隆による同名SF小説を、『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』のアニメーション監督今敏がアニメ映画化。

表の顔は、精神医療研究所に勤めるセラピー機器研究者、裏の顔は「パプリカ」と呼ばれるコードネームを持つセラピストの千葉敦子。彼女は他人の夢をスキャンできるというセラピー機器「DCミニ」を使い、日々、患者の抱える問題に向き合っていた。そんなある日、そ「DCミニ」が何者かによって盗まれてしまい……。

おすすめポイント

こちらも大人向けアニメ映画の金字塔ともいえる名作です。

虚実入り混じった演出、現実と空想の境界線の曖昧な部分が『鉄コン筋クリート』好きに楽しめると感じたので、まだご覧になっていない方はぜひチェックしていただきたいです。

途中、信じられないほど気味の悪いシーンがあり(褒めてます)、私はこの精神世界のシーンが一番好きです。

犬王

南北朝~室町期に活躍した、実在の能楽師「犬王」をモデルに織りなす古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を、『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明監督が映像化した、長編ミュージカルアニメ映画。

京の都、近江猿楽の比叡座の家に、1人の子供が誕生した。その子こそが後に民衆を熱狂させる、能楽師「犬王」だった。しかしその姿はあまりにも奇怪で、比叡座の大人たちは犬王の全身を衣服で包み、顔に面を被せた。ある日犬王は、盲目の琵琶法師少年「友魚(ともな)」と出会う。生きづらいこの世を生き抜くためのパートナーとして固い絆で結ばれた2人は、互いの才能を開花させ周囲に認められていく。舞台で観客を魅了する犬王は、演じるたび身体の一部を解き、唯一無二の美を獲得していく…。

湯浅監督がアニメ化した『ピンポン』を生み出した漫画家・松本大洋がキャラクター原案を手がける。『アイアムアヒーロー』の野木亜紀子が脚本を担当する。

おすすめポイント

こちら『犬王』はまだ公開前(2022年5月28日公開)の作品ですが…きっと『鉄コン筋クリート』好きは楽しめるだろうということでおすすめさせていただきました。私も本作の鑑賞、非常に楽しみにしております。

おすすめするには理由がありまして、まず、キャラクター原案を『鉄コン筋クリート』原作者の松本大洋さんが手がけている点。独特で癖のあるあの世界観が堪能できるとあれば期待大です。

また、監督は『夜明け告げるルーの歌』や『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ少女』などでお馴染みの名監督湯浅政明さんです。そもそも『鉄コン筋クリート』も、湯浅作品かと思うほど作風や雰囲気、幻影の演出や表現が似ていると感じます。また余談ですが、『鉄コン筋クリート』の登場キャラクター蛇は、湯浅監督の『ピンポン』にも出演しています。ぜひ『ピンポン』も観ていただきたい…!

とにかく『犬王』は、『鉄コン筋クリート』好きにとって必見の作品といえるでしょう。5月28日は映画館へ急げ!

まとめ

以上、映画『鉄コン筋クリート』の魅力や感想をご紹介しました。

好き勝手に書いてしまいましたが、一素人の意見だとご容赦ください。

お恥ずかしい話ですが、本作をはじめて鑑賞した時期、ちょうど大切な友人と絶縁してしまったんですね。そのため、自分が唯一無二の相棒を無くしたクロと重なって、他人事とは思えませんでした。物凄くどうでも良い話で恐縮なのですが、このような理由で個人的に思い入れの深い作品です。

足りない部分を補い合えるような友人がいる方は、とても刺さる作品なのではないでしょうか。今身近にいる人の大切さを知り、相手の長所だけでなく短所も愛おしく思える作品かも、しれません。

ぜひチェックしてみてください!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。