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【ネタバレあり】映画『アンダーカレント』感想と見どころ。相手のすべてを「分かる」ことはできない。でも…

こんにちは、映画好きライターの田中です。

ほぼ毎日映画を観ている私が、紹介したい映画の見どころや感想をご紹介。

今回取り上げるのは、2023年10月公開、今泉力哉監督の最新作『アンダーカレント』です。

※ネタバレ含みます

概要

『愛がなんだ』『ちひろさん』など話題作を続々と生み出している今泉力哉監督が、真木よう子と初めてタッグを組み、豊田徹也の長編コミック「アンダーカレント」を実写映画化。

突如かなえの前に現れた謎めいた男・堀を井浦新。クセのある探偵、山崎をリリー・フランキー。失踪した夫、悟を永山瑛太が演じる。

また、『愛がなんだ』の澤井香織が、今泉監督とともに脚本を手がけ、音楽は細野晴臣が担当した。

あらすじ

かなえは家業の銭湯を継ぎ、優しい夫、悟と幸せな日々を送っていた。しかしある日、悟が突然失踪する。

かなえは途方に暮れながら、臨時休業していた銭湯を再開させる。

数日後、堀と名乗る謎めいた男が銭湯組合の紹介を通じて現れ、住み込みで働くことになる。かなえは友人に紹介されたクセのある探偵、山崎とともに悟の行方を捜しながら、堀と奇妙な共同生活を送り穏やかな日常を少しずつ取り戻していくが……。

映画『アンダーカレント』の感想

映画『アンダーカレント』の感想や見どころをご紹介します。

人を「分かる」とは?

物語冒頭で、探偵の山﨑はかなえに人を「分かる」とはという印象的な問いを残します。

これは、人間関係の本質に触れるテーマだと感じました。

人は、その人の話す言葉や雰囲気、経歴や職業などのバックグラウンドといった、目に見える要素から相手を推し測りがちです。

しかし、それは単に表面的な部分であり、本当に分かったことにはならないのではないでしょうか。いくら長年寄り添った夫婦であっても、です。

むしろ、相手が言わなかった言葉、沈黙、隠している心情など、目に見えないものにこそ、その人の真実が隠されているのかもしれません。

2回流れるかなえと夫の回想シーンの意味

作中では、かなえと夫の悟が、今後の銭湯の運営方針や子供のことなど、将来について銭湯の浴場で話す場面が2回流れます

そのシーンでは、悟はかなえの話を穏やかに聞くだけで、何も言いません。黙る悟に対し、かなえは少し不思議がるものの、特に追求はしません。

この銭湯のシーンが2回も流れたのには、もちろん意味があるのでしょう。

人間関係は、いくら相手を大事に思っていたとしても、気づかずうちに何かを見落とし、そのまま放置し、気づいたら修復不可能になるほど溝が広がっていたりするものなのかもしれません。

この回想が2回流れたのは、それだけかなえがこの場面を何度も思い出しており、悟に対しもっと寄り添えなかったのかと後悔の念が募っている演出のようにも思えます。

かなえは終盤で悟に再会した際、「悟が何か隠していたことに気づいていた。いや、悟がいなくなってから、それに気づき始めたのかもしれない」(ニュアンスです)というようなことを言っています。

相手のすべてを分かることはできない

かなえと悟は、うまくいっているように見えて、実はお互いに寄り添えていなかった。本当の相手を見ようとしていなかったのかもしれません。

人と対峙するなかで、その渦中で、相手のすべてを分かることはできない。もしくは、一握りも知ることはできないのかもしれない。

それでは、なぜ人と人は共に過ごしていくのでしょう。

映画を通して、最後まで私にはその答えを出すことができませんでした。しかし、堀が堰を切ったようにかなえに自分の正体を打ち明ける場面は、どこか救われるものがありました。

自己開示は、相手に自分を知ってもらいたいという欲求と、分かってもらうために努力したいという思いから来る行動なのでしょう。

それは、あまりにも現代を生きる人びとが忘れてしまっているものなのかもしれませんね。

悟は人間関係リセット症候群?

ところで、失踪した悟は、巷でよく聞く「人間関係リセット症候群」ではないでしょうか。

人間関係リセット症候群とは、人付き合いに疲れ、今まで築いた人間関係を突然断ってしまう人を指します。

SNSを消去する、連絡手段を断つ、転職を繰り返すなど、やり方はさまざまです。

悟も、昔からさまざまなコミュニティで調子の良い嘘をつき、それが露呈したら別の場所に移り、そこでまで同じように嘘を付く。というようなことを繰り返していたといいます。

違う場所で、新たな自分に生まれ変わり生きていく。それは、すごく魅力的なことにも思えます。

そこでうまくいかなかったら、また別の場所に行けばいい。そんな身軽な状態であれば、どんな嘘もつけるし、いくらでも自分を偽れる。相手が喜ぶ自分でいれる。そして相手の笑顔が見れる。

そこには、悟なりの人生観があるように感じました。

人と対峙するのって面倒くさい

確かに妻であったかなえからしたら、悟の行いはたまったものではなりません。どれだけ懐の深い人でも、「ふざけんなよ」くらいは思うでしょう。

しかし、本当に悟を責められる人なんているのでしょうか。なぜならそれは、その人が一番幸せでいれる生き方かもしれないからです。人は相手を完全に理解することはできないゆえに、相手の生き方に口を出すこともできないはずです。

そう考えると、やはり人と対峙するのはとても苦しい。傷つく。面倒くさい。だから一人でいるほうが楽だし、平穏です。

しかし、タバコ屋のおじさんの言葉は少し刺さってしまいます。

「悲しみは一人で抱え込まず、二人で分け合えばいい」

誰かが隣にいることは、面倒くさいけど、自分の悲しみを分け合える相手と出会えたのなら、救われる。どこまでも人は独りでは生きていけない、哀しく愛おしい生き物なのでしょうね。

映画『アンダーカレント』が楽しめる人

映画『アンダーカレント』が楽しめる人の主な特徴は、下記のとおりです。

  • 淡々と静かな作品が観たい
  • 人付き合いに疲れている
  • 人生再出発したい
  • 銭湯が好き
  • 音楽も楽しみたい
  • ヒューマンドラマが好き

映画『アンダーカレント』が好きな人におすすめの映画

ここでは、映画『アンダーカレント』が好きな人におすすめしたい映画をご紹介します。ぜひ、併せてご覧ください!

街の上で

下北沢の古着屋で働く青年、荒川青。彼は、基本的にひとりでライブを見たり、行きつけの古本屋や飲み屋に行ったりしながら生活している。

行動範囲は異常に狭く、下北沢から出ることはない。そんな彼のもとに、自主映画への出演依頼という、非日常的な出来事が舞い込み…。

今泉力哉監督が、下北沢を舞台に青年と女性たちの出会いを描いたオリジナル脚本の恋愛群像劇。

『愛がなんだ』で仲原役を好演した若葉竜也が単独初主演を。『少女邂逅』の穂志もえか、『十二人の死にたい子どもたち』の古川琴音らがヒロインを演じ、成田凌が友情出演。

おすすめポイント

今泉力哉監督作品である上に、「決定的な出来事によりその人の日常が変化していく」という部分で共通しており、楽しめる要素がたくさんあるのではないでしょうか。

愛がなんだ

28歳のテルコはの生活は、マモちゃんに一目惚れした5ヶ月前から、マモちゃんを中心に動いている。いつだって最優先はマモちゃんで、そのせいで仕事をクビになってもお構いなしである。しかしマモちゃんにとってテルコは、都合の良い女でしかなかった。それでも今の関係を保っていたいテルコは、自分からは一切連絡をしないし、決して「好き」とは伝えない。

ある日、久しぶりマモちゃんから食事に誘われ会いにいったテルコ。そこにはマモちゃんの「好きな人」すみれさんがいて……。

直木賞作家角田光代さんの同名恋愛小説を、今泉力哉監督が映画化。

主人公、テルコ役には岸井ゆきの。マモル役には成田凌。脇を固めるのは深川麻衣、若葉竜也さん、江口のりこと実力派揃い。

当初は全国72館公開と小規模だったが、女性やカップルを中心にSNS、口コミで話題となり、低予算作品としてあまり例を見ないロングランヒットを記録した。

おすすめポイント

『アンダーカレント』の今泉監督の出世作といっても過言ではない本作。同じく澤井香織さんが脚本が務めている点でも共通点が多いのではないでしょうか。

こちらはごりごりの恋愛映画なのですが、監督ならではのナチュラルな画作りや、日本家屋の美しさが存分に味わえます。

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ある男

里枝はかつて離婚を経験し、子供を連れて故郷に戻ったのち「大祐」と再婚した。新たに生まれた子供と4人、幸せな家庭を築いていたが、ある日突然「大祐」は不慮の事故で命を落としてしまう。悲しみに暮れるなか、「大祐」の法要の日、疎遠になっていた大祐の兄が訪れ、遺影の中に写る「大祐」を「大祐じゃない」と言い放つ。里枝が愛したはずの夫「大祐」は、まったくの別人だった…。

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第46回日本アカデミー賞にて最優秀作品賞を含む同年度最多の8部門を受賞。

おすすめポイント

同じく、失踪した人間の謎について徐々に明かされていくヒューマンドラマです。

こちらはミステリー要素が強く、作風は違いますが、「失踪もの」の独特のミステリアス感が好きな人はハマるのではないでしょうか。

アイスクリームフィーバー

常田菜摘は、美大卒業後にデザイン会社に就職する。しかしうまくいかず、現在はアイスクリーム店でアルバイトをして生活している。今後の身の振りについて悩む菜摘は、常連客の作家・橋本佐保に運命的なものを感じ、彼女の存在が頭から離れなくなる。菜摘のバイト先の後輩、桑島貴子は、そんな菜摘を複雑な気持ちで見つめていた。

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おすすめポイント

アート色強い作風は、しっとりとシンプルな『アンダーカレント』とはなかなか別物なのですが、「銭湯」がいい感じに出てくるのと、恋人を実の姉に奪われた独身女性が銭湯を経営し再出発するという展開が、どこか通づるものがあると思いました。

まとめ

以上、映画『アンダーカレント』の感想と見どころをご紹介しました。

筆者は封切りまもなく映画館で観させていただいたのですが、なんともゆっくりとした日常のなかの非日常のような時間が流れていました。

銭湯が舞台ということもあり、浴場のむせ返る湯気の暖かい湿気が想起され、良い意味で眠くなりました。

仕事終わりの金曜の夜、ゆっくり観るのがおすすめです。

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!