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【ネタバレあり】ポップな怪作『アステロイド・シティ』とはなんだったのか

こんにちは、映画好きライターの田中です。

ほぼ毎日映画を観ている私が、おすすめしたい映画をご紹介。

今回取り上げるのは、2023年9月1日に公開された、ウェス・アンダーソン監督の最新作『アステロイド・シティ』です。

封切り直後から「難解」「睡魔との戦い」「とにかく最高」「考えるな感じろ」など賛否両論が飛び交った本作。

筆者は観賞後、可愛らしい世界観の余韻に浸りながらも「いったい『アステロイド・シティ』とはなんだったのか」をずっと考えていました。

今回は、考察動画やレビューを参考に、自分なりに考えた『アステロイド・シティ』について感想を述べていこうと思います。

※ネタバレ含みます

概要

『グランド・ブダペスト・ホテル』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』のウェス・アンダーソン監督の最新作。砂漠の街「アステロイド・シティ」に宇宙人が到来したことから起こる大騒動を、独特でロウな世界観で描いたコメディ映画。

ジェイソン・シュワルツマン、エドワード・ノートンなどアンダーソン監督作の常連俳優陣と、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、マーゴット・ロビーら豪華俳優陣が共演を果たした。2023年第76回カンヌ国際映画祭、コンペティション部門出品作品。

あらすじ

舞台は1955年、アメリカ南西部。砂漠の街、アステロイド・シティ。

隕石が落下してできた、巨大なクレーターが最大の観光名所である、人口87人の小さな街に、科学賞を受賞した5人の天才少年・少女たちとその家族が招待される。

子供たちに母親が亡くなったことを伝えられない戦場カメラマンの父親、映画スターのシングルマザー。各々がさまざまなバックグラウンドを抱えつつ授賞式が始まるが、祭典中にまさかの宇宙人が到来し、大混乱。

街は封鎖され、軍は宇宙人の存在を隠蔽しようとする。しかし天才児たちは、外部へ宇宙人の情報を伝えようと企て始め…。

『アステロイド・シティ』の感想

映画『アステロイド・シティ』の感想と見どころをご紹介します。

主要キャラクター

まずは、劇中の3人の主要キャラクターについてみていきましょう。

オーギー

オーギーは、本作の主人公的立ち位置。

母親の死を子供たちに伝えられないことで悩んでいる、天才児ウッドロウと、チャーミングな三人の娘の父親です。

アステロイドシティ内の物語は、基本的にオーギー主軸に進んでいきます。

ミッジ

ミッジは、シングルマザーの大女優で、オーギーと同じく天才児の母親としてアステロイドシティへ訪れました。

入子構造の本作ですが、ミッジを演じたスカーレット・ヨハンソンは「女優役の女優」を演じる女優となったわけで、非常に複雑です。

ミッジは向かいのモーテルで暮らすオーギーと窓際で会話するようになり、いつしか親密な仲になります。

スタンリー

スタンリーはオーギーの義父で、退役軍人です。子供たちのことは愛していますが、娘の旦那であるオーギーに対してはあまりよく思っていない様子です。

オーギーの娘たちがモーテルの庭に娘の遺骨を埋めようとしたときは、慌てて止めに入りました。

オーギーと同じく、娘の死をまだ受け入れられていない様子も散見されました。

ポップで可愛い1950年代のアメリカ

本作の魅力は、なんといってもパステルカラーで彩られたポップで可愛い1950年代アメリカの世界観。

書割の平面的な街並みや、個性的なキャラクターたちは、良い意味で現実味がありません。
そして次々現れる豪華キャスト、ウェスアンダーソンならではの完璧な画角とカメラワークで素晴らしいエンターテイメント作品に仕上がっていました。

セットのような背景ですが、本作は「リアルな空を撮りたい」という監督の思いから、実際のスペインで撮影されています。カフェやガソリンスタンドなど街を構成する建物は、映画のために制作されました。

あなたが映画でありながら演劇を観ているような不思議な感覚に陥ったのならば、きっと監督の思うツボでしょう。

大胆な入子構造

本作は、冒頭から「劇中劇」とそのメイキングを見せるという、大胆な入子構造となっています。

基本的には、劇中劇はカラー、メイキングは白黒と使い分けられているので、混乱することなく観ることができます。
しかし、メイキングでの司会者がカラーで現れたり、カラーの場面にも関わらず、役を超えて役者として会話するシーンもあり、入子構造はちょっとずつ崩れていったりします。

この、意図的に物語に没入させない仕組が面白く、これまで当たり前だった「映画鑑賞」という「作り込まれた世界を傍観する行為」について改めて考えさせられました。

実際映画とはどこまでもリアルとは程遠い虚構の世界で、どんなシーンにも基本は台本があり、時には不自然な照明が当たり、別の現実世界を生きている役者たちが演じているだけのものなのです。

ファンタジックでポップな世界観が魅力なウェスアンダーソン監督ですが、この入子構造を見るに、実は物凄いリアリストなのではないかと勘繰ってしまいました。

バルコニーの対面シーン

本作は非常に難解だと言われており、ストーリー自体も起伏がなく淡々と進みます。

筆者もエンドロールが流れたとき、「果たして盛り上がりはどこにあったのだろう」「何を伝えたい話だったのだろう」と考え込んでしまいました。

もちろん映画において盛り上がりの有無は必須ではないですが、映画を観るからには多少なりとも心を揺さぶられたいと考えている筆者です。

帰り道、電車のなかで散々考えてみた結果、個人的にこの映画の肝はオーギー役の俳優と、オーギーの妻役の女優がバルコニーで対面するシーンではないかと思ったのです。

そこに、本作が入子構造である意味が存分と現れているといいますか。

劇中劇「アステロイドシティ」のなかで、オーギーの妻はすでに死んでいます。つまり、もう二度と対面することは叶わないわけです。オーギーが子供たちに妻の死を伝えられていなかったのも、本人が死を受け入れられていなかったからかもしれません。

観客はそういった背景をすべて知ったうえで、オーギー役の役者が、役を離れた場所で、別の作品の休憩中に煙草を吸っている妻役の役者と出会う場面を目撃します。

そこに、ものすごく意味があるのではないでしょうか。

考えれば考えるほど、これまでの紆余曲折の混沌は、すべてこのシーンを見るための布石だったのではないかと思ってしまいます。

「目覚めたければ眠れ」

これは、作中で特に印象的だったセリフです。

『アステロイド・シティ』の作者である劇作家のセミナーで、役者の受講者がしきりに「目覚めたければ眠れ」と唱和し出します。

なかなかに印象的である種不気味なシーンですが、この言葉にはどういった意味があるのでしょう。

個人的な憶測になりますが、「現実世界で目覚めていたければ、時には現実から目を背けることも必要」といったメッセージなのではないでしょうか。

どうして人は、映画や小説のような虚構に夢中になるのでしょう。それは、時に現実世界があまりにも厳しく辛いものだからではないでしょうか。

そんな世界で目を覚まし続けるのは、相当しんどい。しかし夢を見ることができれば、目を覚ましていられるかもしれない。

だから本作では、夢のようにポップで可愛らしいアステロイド・シティが作られたのかもしれません。そう、アステロイド・シティは、人びに希望を与える虚構そのものだったのではないでしょうか。

『アステロイド・シティ』が楽しめる人の特徴

映画『アステロイド・シティ』が楽しめる人の主な特徴は、下記のとおりです。

  • アートな作品が好き
  • おしゃれな映画が好き
  • 『グランド・ブタペスト・ホテル』以降のウェスアンダーソン作品が好き
  • 難解な作品が好き
  • 映画は「考えるな、感じろ」派
  • 映画は目で楽しみたい
  • 劇中劇が好き
  • 余韻の残る映画が好き

『アステロイド・シティ』が好きな人におすすめの映画

ここでは、映画『アステロイド・シティ』が好きな人におすすめしたい映画をご紹介します。ぜひ併せてご覧ください!

未知との遭遇

第2次世界大戦で使用され、行方不明となっていた戦闘機が、メキシコの砂漠で発見された。なんと機体は、消息を絶った当時と変わらぬ姿を保っていた。そんななか、アメリカのインディアナ州では原因不明の大規模な停電が相次いでいた。復旧作業に向かった電気技師のロイは、謎の飛行物体に遭遇し、正体を探ろうと調査を進めていく…。

人類と異星人の接触を描き大ヒットを記録した、スティーブン・スピルバーグ監督のSF映画。『アメリカン・グラフィティ』のリチャード・ドレイファスや、ヌーベルバーグの巨匠フランソワ・トリュフォーが出演したことでも話題に。

1980年には、追加撮影と再編集を施した「特別編」が公開され、その後に再々編集した「ファイナル・カット版」も製作されている。

『アステロイド・シティ』では、『未知との遭遇』のオマージュシーンが取り入れられています。

マグノリア

生死の境を彷徨うテレビの大物プロデューサー、アール。彼の若妻、彼がかつて捨てた息子、彼を憎んでいる娘、その娘に一目惚れする警官、看護人、癌を宣告されたクイズ番組の司会者、番組でおなじみの天才少年、そしてかつての天才少年。

ロサンゼルスのマグノリア・ストリート周辺に住む、一見何の繋がりもないようにみえる12人が、運命のように大きな一つの物語に結び付けられていく…。

第50回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したポール・トーマス・アンダーソン監督の群像ドラマ。

冬冬の夏休み

小学校を卒業したトントンは、母が病気で入院したことがきっかけで、妹のティンティンとともに夏休みを田舎の祖父の家で過ごすことに。祖父は厳格だったが、トントンは田舎の子供たちとすっかり意気投合。毎日楽しく遊んで過ごす。一方、妹のティンティンはなかなか仲間に入れてもらえず、兄たちにいたずらをする日々。やがて台北から、父が迎えに来て……。

『悲情城市』や『恋恋風塵』でお馴染みの台湾の名匠、ホウ・シャオシェンのノスタルジックな名作ドラマ。田舎でひと夏を過ごす兄妹の姿を通し、自然の美しさや子どもたちの友情を瑞々しく描いた。

兄妹の父親役は、『恐怖分子』『ヤンヤン 夏の想い出』などでお馴染みの映画監督エドワード・ヤンが務めた。1990年に日本で初公開され、2016年にはデジタルリマスター版が公開。

まとめ

以上、映画『アステロイド・シティ』の感想や見どころをご紹介しました。

個人的に本作は、スルメ映画だと思っています。

初見では「これはなんだったんだ」とぽかんとしてしまいますが、観賞後に解釈を深めていったり、何度も見返したりするなかでじんわりと作品の持つ切なさを感じられるようになる気がします。

筆者も公開中に、もう一度くらいは映画館に足を運びたいです。

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!